常景(九) 川沿いの公園 (盛夏)

 川堤に沿って緑樹が低く、高くと連なり続く。カラスが二羽、また三羽、と樹から樹へと飛び移る。園内中央の花壇エリアに、レモンに似た紡錘形の緑の果実をたわわに実らせた二本の木が、離ればなれに植わっている。その一本の木蔭で、白マスクを顎にずらせた老男が、スマホを手にして、葉群をふり仰ぎながら煙草を吸っている。老男の顔のあたり、迷彩模様といった木肌の幹に、蝉の脱け殻がいまも二つ張り付いている。ひときわ声高く鳴いて樹間の青空を背景に飛ぶ一羽のカラスに、老男が指に煙草を挟んだままスマホを向ける。八月の午後の陽にさらされたベンチの一つに、中年の男が上半身裸で耳にスマホをあてながら日光浴をしている。丈高い立木の葉群越しに見える、川向こうに建つ外装中のホテルが、黒いネットにすっぽりと覆われている。

(2020年8月10日)