常景(四) マーケット前の広場

 マーケット向こうのバスターミナルの一角に、バスが一台出待ちしているのが見える。広場の自動販売機の前に、二歳ぐらいの幼児がいる。彼は手を上げて、自分の頭より高い販売機の点滅する下段のボタンを次々と押したり、その下のつり銭口を指でしきりにまさぐったりしている。かたわらに母親らしきが立ち、黙ってそれを見守っている。マーケットの裏出入り口から、中年の男がマクドナルドの紙包みを二つ持って二人のそばにくる。父親らしき彼はまず、ポテトチップスの一片を幼児に与えると、母子とともにベンチに腰掛ける。あたりに吹くゆるい風が、彼らの背後に群れて立つ樹々の葉叢をさざなみ立たせる。樹間にのぞく川向こうの団地の白壁が夕陽に薄赤くまぶされている。 

(2020年5月7日)