覚帖(十七) 公団住宅前バス・スタンド

 辺りは日暮れて、バス・スタンドで若い女が一人だけバス待ちしている。女は、白いマスクをした顔を俯けてスマホを見ている。脇に立つバス停表示灯が、佇む女をほの明るく照らし包んでいる。女から真横に十メートルくらい離れて電話ボックスが立つ。女とそのボックスのちょうど中間、歩道から奥まった枯芝の地に、役所広報の掲示板が立つ。その周りの立木の影が芝生の上に這って交差して落ちている。さらにその背後に団地の居住棟が建つ。ベランダ側の窓明かりが疎らに点いている。カーテンの色をフィルターにして、各部屋の明るみが淡く濃く夕闇に浮かぶ。

(2017~19年)