輯景(1) 老女

団地の並木道」

 冬枯れの落葉し切った並木が、団地の出入り口へと続く。その道を老婆が買い物カートを、背を丸めて押していく。高台の居住棟エリアへの坂道を、中学生くらいの制服姿の少女が登っていく。並木の枝越しに遠く山の稜線が見えている。団地の外に出た老婆は左に曲がり、バス道路の方へ向かう。その突き当り、丁字路の横断歩道の信号は今は赤。太い土管を荷台に一本に積んだトラックが停車しているのが見える。午後の薄い日差しを背に受けながら老婆は、トコトコとカートを押して行く。

「マーケット前」

 日傘の老女がマーケット出入口で傘をたたむ。自動ドアが開いて、彼女は中へ入って行く。入れ違いに出て来た中年の女は、出入口脇の駐輪場の自転車にまたがる。その後ろ姿がガラスのドアに映り、遠ざかって行く。空のビニール袋が ゆるい風に石畳を転がる。初老の老男がスクーターに乗り、マーケットエリアの外へ走り去る。自動ドアが開く。トイレットペーパーを提げた老女が店から出て来る。

「川堤の並木道」

 川堤のベンチに腰掛ける老女の足もとに枯葉が散り敷かれている。十羽以上にも群れた鳩が地面を突っつき餌あさりをしている。石垣の上に丈高く立ち並ぶ木立の隙間から、薄灰色の空が覗き見える。鳥が枝から枝へと飛び交う。満開の桜並木の遊歩道を、犬連れの老女が行く。浅く川水の流れる対岸の樹間に国道を行き交う車が見え隠れする。マーケットの玄関先に立つ旗が風にハタめいている。川に架かる歩道橋を人が、自転車が通り行く。

「マーケット前」

 青空に大きな白雲が浮かんでいる。マーケットから、二人連れの老婆が出て来る。老男が黒いダックスフンドを連れて、石畳を歩く。男児二人が犬を目がけて駆け寄る。老男が立ち止まり、子供たちがしゃがんで犬と戯れる。母親らしきが側に立ち、二人を見守っている。ほどなく子供たちは、母親に促されてマーケットの中へと入って行く。立木の葉群れが風に漣立つ。立木の影と、ベンチに座る老女の影法師が石畳に落ちている。