常景(六) 通学路

 街路樹の葉叢にまぎれた窓明かりが、夜陰の中にポツリポツリと浮かぶ。その住宅街を貫いて、通行車も間遠な一本の舗装された通学路が、まっすぐに本道の方へと伸びている。歩道には、目測で三、四十メートル間隔に、点灯した外灯のポールが立ち並ぶ。ひとりの老女が、背筋を伸ばしたいかにものウォーキングスタイルで、腕を前後にリズミカルに振りながら、車道の端を速歩で通り過ぎて行く。彼女の白髪が、外灯のスポットの中でより白くなり、明かりから外れてまた薄闇にまぎれゆく。その老女の後を、連れ合いらしき老男が十五、六メートルも遅れて追っていく。老女は、振り返りもせずタッタと先を行く。ほどなくして老女の人影が先に右への脇道に消え去る。

(2020年5月18日)